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もつとも、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項所定の義務違反罪は故意犯であつて、少くとも同条項にいわゆる『他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがある』と認められるに足る事情についての認識は必要と解されるところ、被告人が本件後退行為に及んだのは前記説示の事実関係から明らかなように国道上の交通状況を十分確認せず南進中の車があつたことに気づかなかつた過失によるものであり、当時国道上の交通がひんぱんであつたとの事情もうかがえないので、被告人には確定的故意はもちろん、未必的故意もなかつたと認められ、本件後退行為につき右条項所定の義務違反罪は成立せず、また右義務違反罪については過失犯処罰の明文の規定もないので過失犯としても処罰することはできない。
〔〜省略〜〕
これを本件についてみるに、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項の「車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、後退してはならない。」との規定の過失犯たる内容をもつ行為は、直ちに道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものではなく、具体的な道路、交通および当該車両等の状況において、他人に危害を及ぼす客観的な危険のある速度または方法による運転だけがこれに該当するのであるから、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項違反の過失犯が処罰されていないことから、その過失犯たる内容をもつ行為のうち道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものについて、同法七〇条後段違反の過失犯として処罰できないとはいえないのである。
そうすると、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項違反の過失犯たる内容をもつ被告人の本件後退行為につき、道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯処罰の規定の適用がないとする理由はなく、かえつて、同法七〇条の安全運転義務が、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられていることから考えると、他の各条の義務違反の罪のうち過失犯処罰の規定を欠く罪の過失犯たる内容を有する行為についても、同法七〇条の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすかぎり、その処罰規定(同法一一九条二項、一項九号)が適用されるものと解するのが相当である。
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